07/05/2020 …… notes
アメーバ性脳炎と気候温暖化
国立感染症研究所寄生動物部の八木田健司氏 ※1 によれば、フォーラーネグレリアは20μm程度の小型のアメーバで、栄養体、嚢子、遊泳可能な鞭毛期の3形態を採る。これが嗅神経を経由して脳に感染すると、細胞を融解する物質を分泌して前頭葉を溶かし、栄養として摂取する。その結果、数日から1週間で、突然の頭痛・発熱・肩凝り・嘔吐等を発症する。当初は風邪の症状と似ているため診断が難しく、多くは5日以内に死に至る。これを〈原発性アメーバ性髄膜脳炎(Primary Amebic Meningoencephalitis: PAM)〉といい、世界中で確認されている。アメリカでは、南部の湖水地域、温泉、塩素消毒未処理のプールなどで、まれに感染例が見出されるが、近年は温暖化の影響もあり、次第にアメーバの生息域が拡大している様子である。また、浴槽で繁殖したとみられる個体が、不衛生に使用された鼻孔洗浄器を介して感染した事例もあり、上記記事に「発電所周辺」が明記されているとおり、人間活動による環境の変化が感染拡大をもたらしていることは疑いえない。日本では1996年、佐賀県鳥栖市で25歳女性が発症したのが唯一の事例で、感染経路は不明である ※2。気候温暖化とグローバル化を通じ、今後日本でも多発する危険があり、また海外の温泉地等でも遭遇する可能性のある感染症だが、ミルテフォシンなど効果のある薬剤は使用が始まっているものの ※3、危険な地域で不用意に遊泳しない、鼻栓を用いるなど、予防に万全を期すことがまず重要であろう。(北條)
^※1……八木田健司「アメーバ性脳炎」、『IASR』31、2010年。
^※2……Yasuo Sugita, Teruhiko Fujii, Itsurou Hayashi, Takachika Aoki, Toshiro Yokoyama, Minoru Morimatsu, Toshihide Fukuma and Yoshiaki Takamiya, Primary Amebic Meningoencephalitis due to Naegleria fowleri : An autopsy case in Japan, Pathology International, 49, 1999.
^※3……Richard D. Pearson「原発性アメーバ性髄膜脳炎」(MSD製薬「MSDマニュアル家庭版」)、2020年7月8日最終アクセス。

