10/15/2020 …… notes
白石正輝足立区議の発言を批判する
2020年9月25日の足立区議会定例会一般質問において、白石正輝区議(自民党/当時78歳)が、「L(レズビアン)とG(ゲイ)が足立区に完全に広がってしまったら、子どもが1人も生まれない」「LだってGだって、法律で守られているじゃないか、なんていうような話になったんでは足立区は滅んでしまう」と発言した。発言はSNSを通じて拡散され、批判が広まった。10月6日、足立区議会の鹿沼昭議長(自民党)と区議会自民党は厳重注意を行った。その後白石区議は、12日に謝罪と発言の撤回を申し出た。謝罪は20日の本会議で行われる予定であるという。
現時点で白石区議は謝罪・撤回の意向を示しているが、10月7日時点では毎日新聞の取材に対して「謝罪の意思はない」と述べ、さらに差別的な発言を行なっていた。10月7日に公開された毎日新聞の藤沢美由紀記者と一般社団法人fair代表の松岡宗嗣氏による記事を参考に、白石区議の思想に関して問題点を指摘しておきたい。
●少子化とクィアの問題を連続させて語る 白石区議が議会質問においてLGBTに言及したのは、性的マイノリティの権利擁護と少子化対策を相反するものとしてとらえ、前者を批判しようと企図していたためである。
まず、冒頭の発言に見られるとおり、白石区議は現実的でない例えを用いてマジョリティ(ここではシスヘテロ)の危機感を煽り、クィアに対して少子化の責任をなすりつける姿勢が見られる。 さらに「LGBTについての教育は23区では進んでいる方ですよ。それは反対しないけども、子どもを産み育てることの大切さ、楽しさについて(の教育)は足りていない。子どもを産んで育てることは楽なことじゃない。私も子どもが3人、孫が5人、ひ孫にも恵まれて、努力してきて良かったと思っているので、子どもの時代からそれを教えないといけない ※1」と述べており、白石区議は異性愛規範に応じて子育てをすることを「努力」、そこから逸れること、クィアであることを一種の「逃げ」であるかのように認識していることがわかる。
当然ながら、人間がどのような対象にロマンスや性的な気分を抱き、あるいは懐かないのか、そしてどのような対象と生活を共にするのか、あるいはしないのかという問題は、個人の自由であり、同時に本人の意図のみで決定できる問題では全くない。セクシュアリティとは「嗜好」するものではなく、常に「どうしようもなさ」を携えた「指向」なのだ。すべての人がそうであるのに、マジョリティだけが何も問われず、クィアのみが責められ、法的権限を剥奪されている現状は、間違いなく差別に該当する。よって白石氏の発言は絶対に許容すべきではない。
●「家族」の本質化 なぜ性的マイノリティの法的権利擁護が不要であると考えるのか問われた白石区議は、「基本的には個人の生き方だから、民法の中に(想定されて)ない生き方だからね。一般的でない生き方を特別に擁護する必要ないでしょう ※2」と語っている。民法のために現実があるのではなく現実のために民法があるべきなのであって、この発言は法と現実の主従関係が逆転している。誤っているのは民法の側である。法及び社会通念上クィアの存在が捨象され続けてきた点こそが最大の問題であり、この周縁化/不可視化が是正されない限り、社会的平等は実現されないであろう。
以上のような白石区議の認識の背景にあるのは、徹底して家父長制的な家族制度を「自然」なものとしてとらえ、社会の基礎とする思想である。これは憲法に、家族を「社会の自然かつ基礎的な単位」とする内容を盛り込もうと企図している自民党全体の問題であると言える。この方針の先にあるのは、生存権をはじめとする人権の担保を家族間の扶助に丸投げし、「公」として負うべき人権保障の義務を放棄せんとするネオリベラリズムの極北である。
●「足立区滅亡アンソロジー」問題 この発言に対し、10月5日、女性同士の恋愛、男性同士の恋愛を題材にした創作を募って編纂する同人誌「足立区滅亡アンソロジー」企画が立ち上がった。企画者は「主催は例の発言には怒りを感じてますし100%反対の立場ですが、アンソロの主旨としては「それはそれとしていろんな方法で百合やBLで滅びる足立区エモいしなんかいろんなパターン見たいな…」という方向性です ※3」と述べている。同アンソロジーはSNS上で盛り上がりを見せた一方、白石区議の発言の深刻さを矮小化する内容であるとして批判が行われ、10月7日に中止が決定された。
同アンソロジーは、おそらく白石区議の発言を完全に否定し、政治的意図に基づいて「クィア性によって足立区を滅ぼす」――リー・エーデルマンの挑発 ※4 を現実に「持ってくる」ということだ――を描き出す内容であれば、反異性愛規範の運動体からも歓迎されたであろう。しかし実際には「それはそれとしていろんな方法で百合やBLで滅びる足立区エモい」という、消費的立場をとって計画された。「あなたのせいで足立区が滅びる」と言われることの痛みを帯びて立たない限り、文化的な意趣返しは加害行為への加担になる。ゲイ、レズビアンという現実の存在に対する呼称ではなく、「百合」「BL」という「ずらした」名称で同性愛表象に言及されている点も、リアルタイムで進行している差別の問題にコミットするためには、適当ではなかったと言えるだろう。
文化による規範への反逆の道を閉ざさないためにも、軽薄な消費的立場から差別の問題に介入する行為に対しては警鐘を鳴らしておきたい。(杉浦)
^※1……LGBT巡り“足立区が滅ぶ”発言 炎上の自民長老議員の主張と事実誤認(『毎日新聞』)、最終アクセス2020年10月15日2時。
^※2……前掲※1。
^※3……足立区滅亡創作SFアンソロ(発行中止)、最終アクセス2020年10月15日2時。
^※4……リー・エーデルマン著、藤高和輝訳「未来は子ども騙し:クィア理論、非同一化、そして死の欲動」(『思想』1141号、2019年)。

