10/09/2020 …… notes
『アンという名の少女』が問う、カナダ先住民寄宿学校
最近 NHK でも放送が始まった Netflix のオリジナル・シリーズ、『アンという名の少女(原題:Anne with an “E”、以下 “E”)』は、近来希にみる傑作といっていい。その最大の魅力は、幼児虐待、フェミニズム、LGBTQX、そして黒人・先住民差別など、19世紀末に行われた社会的弱者への抑圧の観点から、モンゴメリの原作全体を捉えなおしていることだろう。いずれも、今回のCOVID-19 感染拡大下において注視された事柄だが、本年6月に配信された第3シーズンの重要なファクターとなっているのが、カナダ・インディアンをめぐる問題である。
アンはひょんなことからミクマク族の少女カクウェットと友だちになるが、彼女は「白人と同等の英語・フランス語教育が受けられる」との謳い文句に誘われ、政府がキリスト教と結託して各地に設置した、全寮制のインディアン学校へと入学する。しかしそこは、彼女が夢見たような場所ではなく……という悲劇が、物語りの契機となる。このインディアン寄宿学校(Canadian Indian residential school system)こそ、悪名高いカナダにおける先住民同化政策の、根幹ともいえる制度だったのである。
同制度の目的は、教育を利用した、いわば先住民文化の根絶にあった。1834年から150年ほどの間に、キリスト教諸宗派の協力のもと142校が設置、全先住民の30%に及ぶ15万人を収容したが、その〈野蛮人〉へ向けられた差別的な態度は、うち3000〜6000人の子供たちを、身体的・性的虐待による死亡へ追いやったという。生き残った者たちも、英語やフランス語、キリスト教の強制により民族的伝統に混乱を生じ、部族のコミュニティに復帰することができず、多くが PTSD やアルコール依存症、薬物依存症に苦しんだ。基礎的なデータを整理した細川道久氏 ※1 によれば、主導諸宗派のうち最も多いのがローマ・カトリックの64、次にアングリカンの35、カナダ合同教会の16、プレズビテリアンの8、メソジストの2、バプテストの1、と続く。近現代におけるキリスト教会最大の汚点、といってもよい蛮行かもしれない。教会諸派による謝罪は、1982年、カナダの憲法でインディアン・イヌイット・メイティの権利が承認されて以降、1990年代を中心に漸次進められてきたが、すべての寄宿学校が閉校したのはなんと2000年になってからで、カナダの首相(当時はスティーブン・ハーパー)による公式の謝罪は、さらに2008年まで待たねばならなかった。同じ年には、問題を解決すべくインディアン寄宿学校真実和解委員会(Indian Residential Schools Truth and Reconciliation Commission of Canada)が設置され、種々の訴訟に対応しつつ調査を進め、2015年に最終報告書を刊行している。また、これを女性の観点から補完する先住民女性全国調査委員会(MMIWG:National Inquiry into Missing and Murdered Indigenous Women and Girls)も2016年に発足、約1200人に及ぶ先住民の少女・女性の安否究明が委託され、その最終報告書はようやく昨年に至って刊行された。
「先住民族の権利に関する国際連合宣言」の採択が2007年だから、カナダ首相の謝罪もそれを受けてのものだったろう。日本の国会でアイヌが先住民と「認められた」のも2008年であり、彼らの名誉の回復と権利の獲得が、いかに長く困難な道であったか思い知らされる。浜由美子氏は、毛皮交易時代にパートナーとしていた先住民に対し、白人側が掌を返したように同化政策に踏み切った理由のひとつに、乱獲により毛皮交易が衰退し始めたこと、アメリカ等との戦争の怖れが少なくなったことなどを挙げているが ※2、〈使い捨て〉の感覚にほかならない。以降正当化の道具として優生思想が動員されてゆくこと ※3 も含め、詳細な検討と周知が必要な問題だろう。
“E”は、残念ながら第3シーズンで終了ということになってしまっており、カクウェットの行方についても回収されないままで、後味の悪さを残している。もちろん、それが否定しようのない〈現実〉なのだが、アンがこれらの問題と向き合う第4シーズンをぜひ観たい、とも思う。同じ気持ちの方は、すでに始まっている署名運動にもご賛同を。(北條)
^※1……細川「カナダ先住民の寄宿学校の歴史:基礎的資料」(『鹿大史学』67、2020年)、11頁。
^※2……浜「カナダ先住民への同化教育:寄宿学校制度」(『十文字学園女子短期大学研究紀要』27、1996年)、73頁。
^※3……細川道久『白人支配のカナダ史—移民・先住民・優生学—』(彩流社、2012年)、第2部第2章参照。

