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「見ればわかるでしょ。人が大勢住んでるだけ」安田浩一『団地と移民』

11/14/2020 …… symptoms / signs

「見ればわかるでしょ。人が大勢住んでるだけ」
安田浩一『団地と移民』

角川書店
ネット右翼やヘイトスピーチに関する著作もあるジャーナリスト・安田浩一氏の『団地と移民 課題最先端「空間」の闘い』(KADOKAWA、2019年)は、人口減少による居住者の減少、住民の高齢化、そして移民が増加したことによる住民同士の対立とその解消のための試みなど、60年の歴史を持つ日本の団地が現在抱えている問題と、その可能性を提示する一冊。


【所感】かつて団地は、夢の居住空間だった。敗戦と海外居住者の日本への帰国、ベビーブームと都市への人口流入による住宅難を改善するために日本住宅公団が設立されたのが1955年。その後建設がすすめられた団地は、当時、「アメリカ型ライフスタイルの先端を行くもの」(原武史『団地の空間政治学』)だった。その団地が、建物の老朽化、住民の減少・高齢化という問題を抱えていることは、原氏の著作でも触れられていたが、現在はそこに住む移民の数が増えている。中国人の多い団地、ブラジル人の多い団地など、場所によって生活する人間は様々。しかし、団地内での数が増えれば増えるほど、もともと生活をしていた人々との対立や軋轢が生まれる。本書は、その大きな要因として、文化摩擦や言葉の問題を上げているが、加えて「世代間のギャップ」、高齢者の日本人と働き盛りの移民の対立でもあると指摘。ここからは、団地の問題は、住む住民同士の対話、人間同士の対話によって、改善していくことが可能だという著者の思いを読み取ることができる。第四章では日本と同じように「団地」が問題を抱えているフランスの事例も紹介。第五章では、戦後日本に帰国した中国残留孤児が多い広島の県営アパートも取り上げられ、それぞれの「団地」が抱える問題の個別性と共通性がそれぞれ提示される。そして、そこで問題を解決するために動いている人々にもスポットが当てられ、これからの「団地」と「移民」の可能性にも言及。「多文化共生の最前線」の場所として、団地をとらえなおそうとしている。(堀)

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